にいがたショートストーリープロジェクト2026

にいがたショートストーリープロジェクトに投稿された作品を掲載しています

2026-01-01から1ヶ月間の記事一覧

雪の器 おかまさこ 著

新潟駅のホームに降り立った瞬間、凛は、胸の奥がひやりとした。 三月だというのに、空気はまだ冬の名残を抱いている。 遠くに見える弥彦山は薄く霞み、ホームの端では除雪車が静かに止まっていた。―ってきた。そう思っただけで、心臓がわずかに速く打った。…

雪解けの海が嘘をつく- 新潟ミステリー短編 - 澤田浩貴 著

弥彦神社の鳥居をくぐった瞬間、空気がわずかに変わった。 四月の終わりだというのに、山の影にはまだ雪が残り、杉林から吹き降ろす風は冷たい。参道の玉砂利を踏む音だけが、やけに大きく響いていた。 「……静かすぎませんか」 そう呟いたのは、高橋美咲(た…

思い出の地に若き日の情熱を 山崎こうせい 著

高く青い秋空の下、春日山城跡の本丸に立つと、眼下に大パノラマが広がっている。高田平野を彩る街並みと関川、それを抱くように鎮座する山々、遠くには日本海が見える。 二十余年前、まだ十九歳だった僕の脳裏に焼き付いた壮大な景色。それが今、長い歳月を…

義父のへぎ蕎麦 瀬母一桜 著

真紀の心は限界を迎えていた。刑務所で働く夫の祐介は、結婚してからの三年間、いつも眉間に皺を寄せているのだ。 「俺、不眠症になったかもしれない」 夜中、トイレに起きたときだった。時間を確認しようと携帯に目をやると、とっくに眠ったと思っていた彼…

いなかの波と鯨波 一原 拓海 著

部屋にひきこもっていた息子の良一が最近、外出するようになった。 高校を辞めてから二年が経った。家業の旅館を手伝えと言っても無視され、部屋から出てくることも少なかった。それが急に午後三時頃に家を出て、暗くなる前に家に戻ってくる。 「どこへ行く…

万代口スイッチバック、未来行き 服部 きっか 著

第一章:消えゆく「神業」 「くーっ、やっぱカッコイイよな」 夕暮れの新潟駅万代口。僕、バンは思わず声を漏らした。銀色に青いラインの新潟交通バスが、見事な角度でバックし車庫へ滑り込んでいく。 「何度見ても芸術的だね。アナログの極致だよ」 隣で眼…

約束のおにぎり 阿部昭彦 著

1 成田空港 マーシャラーは両手に持ったパドルを頭上で高く交差させると、機長に一礼した。 低く唸っていたエンジン音が止み、ヘルシンキからの大和航空(YAL)52便は成田空港第1ターミナル31番スポットに駐機した。 ボーディングブリッジ入口で、…

万代橋を渡る前に わたなり 著

新潟駅を出ると、風が思ったより冷たかった。 改札を抜けた瞬間に感じるこの風だけは、何年経っても変わらない。 川の方へ歩く。信濃川は冬の色をしていて、空と水の境目が曖昧だった。万代橋の上では、車の音が絶えず流れ、誰も立ち止まらない。けれど僕は…

眉が雪国の冬の日に、塩むすびが虹になる 結慧愛 著

新潟駅の万代口から少し歩いた所に、凜太郎の「おにぎり屋・凜」がある。目標は明確だ――“新潟米の一粒で客を黙らせる”。 そのため凜太郎は朝五時、コシヒカリの炊き上がり温度を測り、塩の粒の大きさまで気にする。 そのぶん口も厳しい。 「握る手が迷ってる…

ずっとみたかったその景色 羽守七つ 著

その音楽に恋にも似た想いを抱いたのは二年ほど前だった。 技術的には詳しくないけれど、寧ろそんなこと知らなくていいほど鼓動を高鳴らせる楽器の音。勝手に心を震わせる叙情的な物語のような詞の背景にいつも静かに在る風景。 私が行ったことのないところ…

佐渡の夜 湯けむりの向こう岸 まさゆき 著

船が両津港に着いたとき、海は暗く、風が強かった。 私は自分がどこへ来たのか、少しだけ分からなくなっていた。 観光シーズンは終わり、港に人影はほとんどなかった。 亡くなった恋人のカメラを返す。それだけの用事。 佐渡出身だと聞いていたから、島に渡…

始まりは15メートルから 莇 健太郎 著

上田直樹は戦場カメラマンの写真展に来ていた。すでに二時間以上鑑賞している。直樹の入館から三〇分遅れで入ってきたのが中谷美和だった。午後一二時半になろうとしていた頃、二人は同時に出口に向かった。出口付近は狭かったため、直樹は美和に、どうぞ、…

「新潟在住の売れてない作家の日常」~ショートコント風?~ 利根川尊徳 著

タイトル 「たまご要員?」 「あなた、宜しく、」と家内が私に声を掛けた。 「ああ、そうか今日は木曜か・・・」そう言って普段車内で家内が戻るのを待つ私は、家内と連れ立ってとあるスーパーの中へ入って行った。店内は木曜日とあって、連れ立った買い物客…

出会いは偶然?必然? ゆきち 著

東京にある私立大学の四年生になった健二は、第一希望の就職先から内定を貰い、最後の大学生生活をエンジョイしようと考えていた。その軍資金を稼ごうと、バイトを探していた。居酒屋やコンビニでバイトをしていたことは数多くあったが、一度だけ都心のシテ…

暗い水面 藤川 六十一 著

闇の中に、小さな女の子の姿が浮かび上がっていた。 地上より少し高い位置にあるその姿は、いささか不自然で特異な光景であった。 夜の黒い背景の真ん中に、女の子がいる。まるで絵画のようだ。しかし、彼女は、わずかに身動きしている。 これは一体何だろう…

雪の国から あまなす 著

国境の長いトンネルを抜けても、そこが戦国の世になっていることも、ましてや、僕が上杉謙信になっているなんてこともない。あたりまえにトンネルの先は雪国で、僕はやっぱり僕でしかなく、ほかの何者でもない。 窓の外は、頭がくらむほどの白光。東京での数…

Speak Like a Child 筒井 寿穂 著

帰省すると、いつも母が迎えに来る。けやき通りのイルミネーションをぼんやりと眺める僕は、疲労と緊張で仮面を外せないでいた。 「高校の向かいの角のお家、空き家だったでしょ?あっという間に取り壊されちゃって、どんなお家が建っていたかしらね」 熱い…

のっぺの匂い 高瀬有未 著

年の瀬、私は新潟へ帰った。 駅を出ると、人々が家路を急いでいる。 紙袋を提げ、足早に歩く背中が行き交っていた。 ぶつかりそうで、ぶつからない距離が、自然に保たれている。 父が、駅まで迎えに来ていた。 「夕方だしな。腹、空いてないか」 「大丈夫」 …

タロウを呼ぶ声 日野和彦 著

もう限界だった。全身が冷え切って感覚がない。岩陰に隠れて吹雪が体中に吹き付けるのを、ただひたすら我慢するしかなかった。 意識が薄れるとともに、夢を見始めた。目の前に懐かしい光景が現れ、いつのまにか幼い頃の自分に戻っていた。吹雪ではなく、涼風…

大欅 池田吉伸 著

真夜中に携帯電話が鳴った。夜明け前の電話は、十中八九が身内からの悪い報せだ。特に始発電車が走りだす前のものはタチが悪い 。今、時刻は午前3時59分。母からの電話だった。一応覚悟をして出る。 「安吾かい。お父さんが息をしてない。どうしよう?」 …

幸せを呼ぶネコちゃん ミズサワ ヒロアキ 著

ある日、ひーちゃんという名前の一人の男の子が、かわいらしいネコちゃんと公園で遊んでいました。ひーちゃんは、昔から動物のネコちゃんのことがとても大好きでした。この日もひーちゃんは、おじいちゃんと一緒に公園に行きネコちゃんと楽しくワイワイたわ…

働き者のミツバチ君 ミズサワ ヒロアキ 著

新潟県上越市内のとある村に、とてもキレイなお花畑がありました。これはそんなお花畑で、子どもたちのために一生懸命働くミツバチ君のお話です。 お花畑にいるミツバチ君は、とても働き者です。働き者のミツバチ君は、今日も元気にお空の上をブンブンブンと…

風の向こう、芝の匂い 日向知実治 著

競馬場の芝、海の色、夜の静けさ。 全部が、二人の記憶として重なっていく。 この街で、誰かと生きる。 それは、もう一度恋を選ぶことだった。 新潟駅万代口に降り立つと、まだ冷たい海風が頬を撫でた。春の訪れをためらうような、この季節の雰囲気が私は嫌…

雨のとおせんぼ たなべあべの 著

それは急にやって来た。 頬にポツリと何かが当たった。手でふれると、水だった。「雨?」 今日の天気予報は曇りだったけれど、降水確率はゼロだったはず。ここ最近は雨が全く降らなかったから油断していた。 「傘を持ってくるべきだった」 どんよりとした空…

また、くるね 高瀬有未 著

新潟駅で、父は待っていた。 改札の前で、両手をポケットに入れて、少しだけ背中を丸めて立っている。 「久しぶりだな」 それだけ言って、父は歩き出す。 並んで歩くのは、今も少し照れくさい。 店に入ると、へぎそばの木の器が運ばれてきた。 一口ずつ、き…

燕の鏡面、笑う男 速水静香 著

回転するバフの唸りだけが、深夜の工場を支配していた。 綿布を何層にも重ねて円盤状にしたその道具は、高速で回転することで、触れるものすべてを削り、ならし、光へと変えていく。 私は防塵マスクの奥で荒い息を吐きながら、手元のステンレス板をバフに押…

越後の雄謙信 三木爽史 著

新潟と言えば、最初に浮かぶのは上杉謙信であろう。謙信は義に厚く、戦さ上手であった。北条家や武田家に浸食された各地の武将を助け、精鋭八千の兵を引き連れて、連戦連勝の当代一の戦国武将であった。領地を増やすという欲は無く、嫁を貰わぬという禁欲の…

新潟から始まる関係 神崎詩音 著

「ありがとうございました、六三二円になりまーす!」 コンビニで発売したばかりのスイーツとカップ麺を購入し、店を出た。 外に満点の星空が輝いていて、あ、東京も星が見えるのか、と思った。ジャラ、と、中古で買ったスポーツカーの鍵をポケットの奥で鳴…

幻の果実 縄文とき子 著

新婚早々から夫の行動が怪しい。 不信感を抱いたまま結婚生活を送っていくことに疑問を感じ始めたので、興信所を使うことにした。 夫がまだ私に対して警戒心を持っていない今のうちに、決定的証拠をつかんでおこう。もんもんとしながら、しばらく泳がしてお…

ラストオーダー 縄文とき子 著

駅前の小さなスナックに入ると、すでに先客がいて、カウンターのすみに腰かけていた。 ビールを飲んですでに出来上がっている様子。 後ろ姿しか見えないが、 ゆったりしたニットを着ていて背中が丸まり、お疲れモード全開だった。 白髪まじりのパサついた茶…