にいがたショートストーリープロジェクト2025

にいがたショートストーリープロジェクトに投稿された作品を掲載しています

2025-01-01から1年間の記事一覧

浅草冬奇譚 瑪瑙 著

明治四十三年の東京・浅草。にぎわう仲見世通りを歩く人々の間には、見えない恐怖が漂っていた。独身女性を狙った連続殺人事件が相次ぎ、町は震撼している。被害者は四人。すべて若い女性で、共通して和装を好む者たちだった。そして決定的な特徴は、全員が…

運命の出会い 空泉 著

文具女子博。 日本最大級の文具の祭典。 わたしはこの日を待ち侘びていた。 入場して、最初に手に取ったのが[あまいおはじき]。 新潟県の長岡にある越乃雪本舗大和屋の商品だ。 東京に住んでいるわたしには普段ネット通販でしか手に入れる事が出来ない。 …

コシヒカリアイス 矢宮順晴 著

親父が死んだ。享年七十二歳。棺桶の小窓から覗くと、痩せ細って見る影もない親父がいた。いや、そもそも記憶違いかもしれない。元から痩せている人だったかもしれない。親父とお袋は、俺が中学三年生のときに離婚した。それ以来、親父とは会っていなかった…

蓮の骨 逢坂彩 著

あぁ、こんなにも骨ばっていただろうか。 ミルクガラスで出来たフルーツ皿を運ぶ小さく震える手を見て思う。「渋抜き、うまくいったねぇ。八珍柿にはねぇ、ヘタの方にたっぷりお酒を塗るんよぉ」 また、柿を切りに台所に戻ろうとする祖母が言った。 おばあち…

金色の雪 かたせひとみ 著

私は死んだ。 一週間前の夜、台所で茶碗を拭いている最中に、突然視界が暗転し、82年の生涯を閉じた。 今日は私の葬式だ。 私はフワフワと漂いながら、天井あたりから会場の様子を眺める。親戚、友人、ご近所さんが集まり、それぞれ悲しげな顔をしている。そ…

ユアドリーム 久保田毒虫 著

おはよう。 昨晩はね、君の夢を見たよ。 夢の中で僕は胎内の町にいるんだ。僕たちの故郷のね。 そして暫く歩いて、海が見える丘に着いたんだ。昔よく遊びに行ったあの丘だよ。 丘の上に白い家がポツンとあるんだ。 ドアを開けたら、広い部屋が一つあって、奥…

ジャスパー・ハート 円藤里志 著

対岸に煌めく灯りを背に信濃川は深淵を湛える。今晩、末田俊太は誰とも口を利きたくない。マッチ軸じみた身体を萬代橋の欄干にもたれて目を瞑る。戦車が来ても起きるものか。 幾つもの靴音が通り過ぎた後、鼻先の強い薔薇香に末田はのけぞる。 ベレー帽を被…