にいがたショートストーリープロジェクト2025

にいがたショートストーリープロジェクトに投稿された作品を掲載しています

にいがたショートストーリープロジェクト2025

《 あなたの綴る短編小説、掌編小説を広く募集します 》

条件は一つ。作品に“新潟のエッセンス”を加えること。
舞台が新潟。新潟出身の主人公。新潟の名物や名産を盛り込むなど、
ちょっとでいいので“新潟のエッセンス”を入れてください。

素敵な作品は書籍化し、朗読イベントや読み聞かせを行い、
多くの方々の目に、耳に届けていきます。

www.wavecreation.jp

このブログでは、にいがたショートストーリープロジェクト2025に投稿された作品を公開しています。

温もり 大谷みなと 著

 二十一時を過ぎると、人通りが極端に少なくなる。越後湯沢駅西口、駅前広場にある足湯。今日も私たちは、二人でここへやって来た。ここの足湯は直線状ではなく、凸凹と入り組んだ形状をしているため、一般的な足湯よりも近い距離で、向かい合って座ることができるのが、その魅力のひとつだ。私は連れの正面に腰掛け、靴と靴下を脱ぎ、ゆっくりと足を湯に浸ける。

「あっつ!」

 先に足を浸けた彼女が顔を歪める。しかしその歪み方は決して苦虫を噛み潰したようなものではなく、我慢と相まった心地良さが表情に表れたまでと言うべきだろうか。無論、私も熱くない訳ではない。足先から伝う熱は、私の太ももや腰を経由して全身の気を引き締めさせる。冬の日に悴んだ足をこれだけ湯煙にまみれた湯に浸ければ、当然のことだろう。が、やはり気持ちいい。痛みの奥にあるじんわりとした高揚感、熱を全身ではなく足だけで感じるからこそ、この感覚になれると私は確信している。

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月下氷人絵図 漣霧 著

    1

 

「親と月夜は、いつもよい」

 母が口癖のように言っていた。

 

 手取り十万円足らずで、床ずれができ、認知症みたいになった母の面倒を見ていくのは、どうにも自分の手に負えそうになかった。

 月の明るい夜だった。

 母を背負ってみると、背中のあたりに不思議な重みを感じる。

「月の世界は、六分の一」

 何となくそんなことをつぶやきながら歩いていく。

 

 路地を抜け、しばらくすると、すこし視界が開けてきた。

 うすぼんやりとした月明かりに照らされ、まだ残っていた田んぼのそばを水路に沿って歩く。

 背中の母が時折だらしなく首を振る。

 襟首に濡れた感触が這い、乾いたあぶくがぷるぷると走りだす。灰色熊の縮れた毛先みたいに丸こくなって。

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そんな小さなエピソード 圭琴子 著

 夏休みは博史(ひろふみ)と旅行に行くのが定番になっていた。

 東京に行ったこともある。海外に行ったこともある。

 でも付き合って八年も経つと、だんだんと行き先に迷うようになっていた。コロナ禍が終わらないこともあって、東京と海外は真っ先に候補から外された。

 温暖化で北海道も暑くなったけど、それでも湿度が少ないから過ごしやすい。道内で日帰り旅行はどうかと提案したが、それには博史は首を縦に振らなかった。

 珍しい。いつもあたしの希望を一番に聞いてくれるのに。

「新潟に行かないか?」

「えっ。なんで新潟?」

「映えスポットがあるんだよ。沙希(さき)、インスタ始めただろ」

 なるほど。あたしはズボラだからLINEも返事が遅い方だったけど、友だちの影響でインスタグラムを始めたばかりなんだった。まだ一枚も投稿がないことを、博史なりに気遣ってくれたのかもしれない。

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新潟県糸魚川翡翠と山梨県の隠し金山 キャップ 著

 国上寺は、新潟県燕市にある真言宗豊山派の寺院である。
 709年(和銅2年)、泰澄によって開山された。弥彦神社から神託があり、泰澄が創建したものという。泰澄は修験道の僧侶であり、修験道の寺院であったが、その後、法相宗、天台宗、真言宗醍醐派へと変わり、最終的には真言宗豊山派となっている。
 平安時代末期に源義経が奥州藤原氏を頼って奥州に逃れる途中、当寺に一時身を隠していたという伝説がある。戦国時代、上杉謙信が七堂伽藍として整備したが、後に兵火で焼失している。江戸時代中期になり萬元によって中興された。
 当寺には「五合庵」と呼ばれる草庵がある。この庵は当寺を再建した萬元の住居として建てられたものである。名称の由来は、萬元が1日5合の米を寺より支給されていた事による。後に良寛が移り住んだ事で有名になった。

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悪魔とすし 大野美波 著

 オレはモブ。本当のなまえはナンバーA503。悪魔である。人間の世界では出世コースにのれなかった労働者を『まどぎわ』というらしいが、それを言うならオレはまどぎわ悪魔だ。他に優秀な悪魔はごまんといる。今日も仕事は夜からにして、昼は遊びほうけよう。オレの姿は人間そのもので、本来の姿になっても羽が生える程度であまり悪魔っぽくない。大柄なのがとりえと言えばとりえだ。特殊能力は飛ぶことと、人間の心をよむことと、万が一人間界でいざ大きな事件をおこしてしまったときのため、人間の記憶を消す力など、他の悪魔と変わらない。
 「よしえちゃん、今彼氏と別れてさみしいんでしょう」
 「わかる?」
 オレは『まどぎわ』なのでこれらの特別な力もたいてい女をひっかける時に使う。
 「じゃあオレのとっておきのやつみせちゃおうかな」
 オレはコインを取り出した。そしてコップをさかさまにしてテープルに置き上にコインを乗せた。その上におしぼりを置いて、上からおした。

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