にいがたショートストーリープロジェクト2027

にいがたショートストーリープロジェクトに投稿された作品を掲載しています

にいがたショートストーリープロジェクト2027

《 あなたの綴る短編小説、掌編小説を広く募集します 》

条件は一つ。作品に“新潟のエッセンス”を加えること。

舞台が新潟。新潟出身の主人公。新潟の名物や名産を盛り込むなど、
ちょっとでいいので“新潟のエッセンス”を入れてください。

素敵な作品は書籍化し、朗読イベントや読み聞かせを行い、
多くの方々の目に、耳に届けていきます。

www.wavecreation.jp

元祖を削る 한태흑 著

 「元祖だけ、消してください」

 新潟市の路地で、女は看板を私の作業台に置いた。「元祖おにぎり」。赤い二字と黒い四字。明後日からこの店を開けるのだという。

 元祖を消せば黒い字が中央からずれる。私は紙に新しい看板の図を描いた。

 「新しくすれば、釣り合いも取れます」

 「字のないところは、そのままでいいです」

 空いた場所には値段を入れられる。営業時間でもいい。女はどちらにも首を振った。

 「そこは空けてください」

 塗る仕事は一字いくらと決めていた。消す仕事の値段は決めていなかった。二字なら大した手間にはならないと思い、私は五千円と答えた。

 

 赤い塗料は、木の溝に入り込んでいた。薬剤を塗って拭き、また塗った。表面の赤が薄くなると、今度は溝の赤が目立った。元の横棒が、こちらを向いて笑っているように見えた。

 電動の研磨機を当てた。赤い粉が舞った。私の店には集じん機がない。掃除機の口を左手で押さえ、右手で機械を動かした。角を越えた瞬間、黒い「お」の輪が半分なくなった。

 そこで初めて手を止めた。赤い二字を追いかけるほど、黒い四字まで危なくなる。板の厚さも減っていた。

 見積もりの紙には「元祖消去」とだけ書いてある。「隣の字は削らない」とは書かなかった。当たり前のことを、私ができなかった。

続きを読む

雪の山守 櫻井克己 著

 春になれば、雪は消える。

 美奈は、新潟の山あいを埋めつくした白を見ながら、そう思った。

 なら、自分も同じでいい。

麓の集落からさらに車で一時間。そこから先は除雪もされない。冬のあいだ、山腹の小さな神社の奥宮を守る。それが「山守」の仕事だった。

 報酬は安い。その代わり、寝る場所と食料と灯油はある。春まで人と会うこともほとんどない。

 今の美奈には、それで十分だった。

 夫がいなくなった。そのあとで預金もなくなっていることを知った。家も仕事も失った。

 生まれ育った市街地へ戻れば、知っている道ばかりだった。駅前のパン屋。川沿いの学校。夫と何度も買い物をしたスーパー。

 だから余計に戻りたくなかった。

 山守を紹介した老人は、奥宮へ向かう前に笑った。

「昔なら、人柱みたいなもんだ」

「そうですか」

 それなら、それでも構わないと思った。

 山で死ねば、少なくとも誰かの役には立つのかもしれない。

続きを読む

翠玉物語 縄文とき子 著

 ホテルにはかなり早目に着いてしまったけれど、女性スタッフの人からチェックインは可能ですとニッコリされたので、助かった。

 それから私は準備をして、近所の共同浴場に出かけることにした。 開館直後のせいなのか、貸し切り状態で気持ちがいい。温泉に浸っているうちに、色々な思いがあふれてきた。

 彼が幼なじみと浮気をした。大切にしていた二人に裏切られた。ほとんど何も食べられない日が続き、いきなり過呼吸にもなって、私の体調は急速に悪化していった。

 だけど、『美人の泉』のお湯につかっているうちにいつもの緊張が緩んできた。五感も刺激され、心身にポジティブな変化が生まれてきた。

 そっと優しく撫でなくても心の垢が次々と落ちていき、踵のひび割れもまるで赤ちゃんのみたいにふわふわになってきたのである。

  鏡を見ると、風呂上がりの自分は笑い顔だった。あんなバカクズコンビはこっちから捨ててやる。私は前向きに生きていくことにした。

佐渡へ渡れなかった手紙 Michi 著

 祖父の葬儀が終わって三日目、蓮は出雲崎の古い家で遺品を片づけていた。

 大阪から戻るのは五年ぶりだった。

海に近い家には、窓を閉めていても潮の匂いが染み込んでいる。蔵の奥には、古い漁具や煤けた写真、使われなくなった文机が積まれていた。

 その文机を動かしたとき、一通の封筒が床に落ちた。

 黄ばんだ封筒だった。

 表には、墨の字で、

「佐渡郡相川町 高橋志津様」

 とある。

 切手はなく、封もされていない。

 蓮は迷った末、便箋を開いた。

――志津へ。

――明日、新潟から佐渡へ渡る船に乗ろう。

――家も仕事も捨てる。

――お前となら、どこへでも行ける。

 無口だった祖父からは想像もつかない言葉だった。

 便箋の間から、色の抜けた小さな押し花が落ちた。

 黄色い花だった。

 祖父は晩年、よく海を眺めていた。

 縁側に座り、水平線の向こうを、何時間も見ていた。

「何見てるんや」

 幼い頃、蓮が聞いたことがある。

 祖父は一言、

「佐渡や」

 と答えただけだった。

続きを読む

仏をたずねる 松井夕二 著

 この前、いたずらにさらわれて葛葉峠を歩きました。県境をまたいで糸魚川へ行く電車の中で、窓から外を見ていましたら、峠で大仏が座っているのを見つけたので、あれはどういうのかなと思って、すぐ近くの平岩駅でおりたのです。
 平岩駅には人がいません。駅の外に出て、峠に目をやっても、あの大仏が見えないので、近くの人に尋ねようと思ってもいないので困りました。峠の反対側は国道がずっと続いていて、そっちに行ってもしょうがないので、峠に向かって歩いていくのです。
 人気がないのに道ばかり広いのが寂しい。道沿いの家や店は皆小高い木を背負っていて、その葉や藁に巻かれています。どうせ車のひとつも来ないと思って、道のまんなかを歩いていますと、途中で黄色い建物を横切って、その中から声がしたのを聞きました。建物をみると、窓が全部外れていたので、だから声が漏れたのだろう。中は暗くて見えません。時間はまだ昼で、空も晴れて、大変いい天気です。
 声が大きくなって、窓から沢山の赤い顔が出てきました。赤い顔に目と口がぽっかり空いた穴のように黒いので、そこから向こうの闇が覗けているのだと思いました。それが上へ行ったり、下へ行ったり、奥に行ったり、揺れたりして、やがてこっち側へ近づいてきますと、赤い顔の周りに茶色い毛が出てくるのです。建物の中にいるのは何匹もの猿でした。
「そこで何をしてるんだ」
 と猿が聞いてきたので、電車の中で、この辺りに大仏を見たので、それを見に来たと言ったら、
「お前は電車で来たのか。どこから来たんだ。大仏様のところまで行くのか。行って何をするんだ」
 と早口で聞くので、松本から来た、大仏を見て、駅へ戻って糸魚川へ行くと言うと、
「見るだけか。大仏様へ登ったり、目をいじったり、中へ入ろうとしないか」
 とまた聞くので、しないと言うと、
「お前は猿を好きか。おれたちを追いかけたり、捕まえたりしないか。ここに住まないか」
 と声を荒げるので、同じように、猿は好きです、大仏様と同じように見るだけです、ここに住みません、と叫んだら、猿は手を叩いて喜んで、大仏までの道を教えてくれました。

続きを読む