にいがたショートストーリープロジェクト2026

にいがたショートストーリープロジェクトに投稿された作品を掲載しています

にいがたショートストーリープロジェクト2026

《 あなたの綴る短編小説、掌編小説を広く募集します 》

条件は一つ。作品に“新潟のエッセンス”を加えること。
舞台が新潟。新潟出身の主人公。新潟の名物や名産を盛り込むなど、
ちょっとでいいので“新潟のエッセンス”を入れてください。

素敵な作品は書籍化し、朗読イベントや読み聞かせを行い、
多くの方々の目に、耳に届けていきます。

www.wavecreation.jp

このブログでは、にいがたショートストーリープロジェクト2026に投稿された作品を公開しています。

 

<実行委員会より>

 にいがたショートストーリープロジェクト2026へ、たくさんのご投稿をお寄せいただき誠にありがとうございました。
 2026年2月末日を持ちまして、作品の投稿を締め切りました。


 皆さまから届いた物語の一つひとつに、新潟の風景や人のぬくもり、そして書き手それぞれの想いが感じられ、一同とても嬉しく拝読いたしました。短い物語の中にも、さまざまな世界が広がっており、この企画の可能性をあらためて実感しております。
 ご参加くださった皆さまに心より感謝申し上げます。これからも物語を通して、新潟の魅力や人の心をつなぐ活動を続けてまいります。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

にいがたショートストーリープロジェクト実行委員長 遠藤洋次郎

新潟愛 なつ 著

「だよね、五キロでこの値段」
 東京下町のスーパーでそんな声があがるたび、私は胸の奥が少しだけ熱くなる。
 新潟魚沼産コシヒカリ。今月もよく売れている。
 パートの身だが、米の仕入れは任されている。
 売上表を見て、そっと息をつく。今月も大丈夫だ。
 閉店前、店長に声をかける。
 今日も、あの家へ届ける。
 配達は原則しない。
 だが神奈子さんだけは特別だ。
 二年前、細い腕で五キロの袋をレジ台に持ち上げた。
 思わず声をかけた。
「お仕事終わるまで待ってください。車でお送りします」
 あれから二年。
 余命三か月と言われたご主人は、今日も米を食べている。
 魚沼産は、冷めたあとに甘みが出る。
 時間がたつほど、味が深くなる。
 人と同じだ、と思う。
 十年前、新潟で出会った男がいた。
 若い農業者の集まりで、穏やかに笑っていた。
 彼は派手ではなかった。
 採算よりも土を大事にする人だった。
 物足りなくなったのは私のほうだ。
 別れを告げ、東京に戻った。
 数年前、米袋の生産者シールに彼の顔を見つけた。
 隣には小さな女の子。
 笑顔は、あのころのままだった。
 私は今も、魚沼産を売っている。
 遅くても、じわりと評価される米を。
 今日も神奈子さんの家に届ける。
 炊きあがる匂いが、命をつないでいる。

湯気が消えない夜 もと 著

 新潟駅に降りた瞬間、息が白くなった。
 私はその白さを見て、やっと自分が「ここまで来てしまった」のだと認めた。
 本当は、来る予定なんてなかった。
 家のこと、仕事のこと、作りかけの原稿のこと。やることが増えるほど、頭の中だけが忙しくなって、心が置「旅程を作りますか?」
 スマホが聞いてきて、私は反射的に「はい」を押した。AIが提案してきた予定は、無駄がなくて、正しくて、̶̶でも、今日の私は“正しさ”が欲しいわけじゃない。
 駅前のコンビニで、紙コップのホットを買った。ふたの小さな穴から湯気が細く立ち上る。両手で包むと、熱萬代橋へ向かう道は、知らないのに不安じゃなかった。むしろ、知らないからこそ、目に入るものが全部、新橋の上は風が強かった。水面は光を受けて、鈍く揺れている。欄干に手を置くと冷たい。その冷たさの奥に、̶̶ここを、何万人も渡ってきたんだ。
 私はポケットの中でスマホを握り直した。

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音が聴こえるね、聴こえるわ……花火の音だ、花火の音ね 神崎詩音 著

 さようなら、と、別れを、愛する人の写真と共に、海に流した。

 思い出は綺麗な場所で浄化される方がいい。私はというと、ロマンチストかも知れなかった。

 残念ながら、あまり、美しい記憶がない。あの人なんかいない方が良かった。

 

 人間の記憶は曖昧だ。

「呼んでません」

 その一言で、突き返された。でも……一度、連絡くれたじゃありませんか。

 あの人の葬式に、とうとう、参列できないまま、私は、あの人の生家に背を向けた。

 どうしても、最後のサヨナラが言いたくて、慣れないスーツの喪服を用意した。パンツルックで再会すると決めた。だって、あの人が、よく似合うと言ってくれたから。でも、あの人の親族は、私を見るなり鬼の形相と化した。まるで、私にとっては、悪鬼だった。

「あなたが、こんな寒い冬の日に、あの人を海になんか連れて行くから……!」

 でも、海が見たい、最期に綺麗な日本海が見たいと彼が告げたので、私は、両手で車椅子を押しながら、彼を海まで誘った。ちょうどその日は、日本海が荒々しく猛っており、海鳥が飛んでいた。私は、彼とその様子を、「綺麗だね」、と、まるで、生命力の躍動を彼の身に刻みつけるように、眺めていた。この日本海のように、彼が猛々しく、元気に蘇ってくれることを望んだ。

「あなたと共に、歩んでいきたい」

 私は一言、そう告げた。再び目を開いた彼は、ぼんやりとした眼差しで、遠くを見つめていた。泡立つ日本海が、全ての水平線をかき混ぜて、かき消して、轟音は、寄せては返し、彼の足元に、一雫、飛沫を散らした。

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花火にかき消された「好き」を、もう一度この海で ころころ 著

 一年ぶりの海岸は、隣にあかりがいないだけで、これほどまでに広く感じるものだろうか。
 去年の今頃、僕たちはここで「ぎおん柏崎まつり」の花火が上がるのを待っていた。あかりが見つけてくれた二人だけの海岸。
 湊(みなと)は、地元新潟で働くエンジニアだ。あかりは、食品メーカーの営業として働いていた。ひまわりのように明るく、常にポジティブだった。仕事でミスをして、落ち込む僕の背中を、「湊、暗い顔してないで。ほら、今日は楽しもう!」と叩いては、強引に前を向かせてくれる。そんな彼女の強さと、時折見せる年上のような包容力に、僕は心底惚れていたのだ。


 あの夜、僕は勇気を振り絞って、隣に座るあかりに告白した。
 けれど僕の告白は、海中空スターマインの轟音に、無情にもかき消されてしまった。
「え? 何、何か言った?」
 あかりはいたずらっぽい笑顔で、僕の照れた顔を覗き込んだ。至近距離で見つめる彼女を「かわいい」と思う気持ちと、情けなくて恥ずかしい気持ちが入り乱れ、僕はパニックになった。
「な、なんでもないよ! あ、電話だ」
 僕は咄嗟にウソをついて、逃げるようにその場を離れた。
「いくじなし」
 どこからか、そう聞こえた気がした。それが、僕たちにとって最後となる、幸せな夏の記憶になってしまった。

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横二番町通 香田 柚子 著

 駅を降りたら冷たい空気が頬に触れた。東京から電車内で暖まった身体は、まだ外の寒さには慣れていないようだった。駅はショッピングモールもでき、素敵なお土産や洋服が売っていて、スタイリッシュな装いに変化していた。再開発で段々と新しく綺麗になっていくのは気持ちが良いが、下階に降りるのには少し不便になったようにも感じる。この後の待合わせの時間に遅れないようにバス停へと急ぐ。

 約束の相手は私がお世話になっている安部夫妻。生まれた街をよく知らず、新潟の昔のことを調べていたら、知り合うことができた。  

 ご主人は、新潟の歴史に限らず、船や電車、駅弁の包み、マッチ箱のデザイン、擬洋風建築のことなど、ご自分が興味を持ったことを新聞や図書館、文書館などで最初から緻密に調べて纏めている研究者のような方なのだ。

 待合わせをしたレストランにようやく着いた。創業が大正時代のこのお店。初めて訪れる。店名は市内で有名なレストランのシェフの命名だそうだ。選んだのはお二人だ。入口でキョロキョロしている私に、奥の方から手を振っていらっしゃった。

「寒かったでしょう?東京は?」

「東京では、今頃は山鳩が鳴き始める頃だったかな?」

 とお二人がほぼ同時に話を始める。

「ご注文を…」

 と、挨拶もそこそこに、すぐにメニューを決めなくてはいけなくなった。ご夫妻は和食を、私は有名なタンシチューをいただいた。いつか来たいと思っていた憧れの味。やはり美味しい!

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