にいがたショートストーリープロジェクト2025

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佐渡が見える風景 ネコすぎ 著

 僕の一人娘が東京の大学に受かり、一人暮らしをすることが決まった夜。温めのふろに入りながら僕は、新潟大学の学生だった時にはできたけど、今はもうできないだろうなと思うことを、つらつらと考えていた。

 新潟大学からほど近い距離にあった、五十嵐三丁目近くの砂浜。軽自動車ミラターボに乗っていた僕は、友達と一緒に暑い夜を涼むために浜辺にたたずんでいた。街の明かりはさほどないのだけれど、佐渡の明かりがぼんやりと海に浮かんでいる。

 泳ごうか、誰が言い出したかは今となってはわからないけど、海パンだけになった僕たちは次々と夜の海に入っていった。あたりは暗くて、自分の足元もよく見えない。ただ、佐渡の明かりだけがぼんやりと海に浮かんでいる。

 大学を出たら、社会人になったら、一人で生きて行かなくちゃならないのか。学生時代、一人暮らしを始めた頃は、一人で部屋にいると泣きたくなることが多かった。そんな時は、アポもないのに夜中、同じ弓道部員のタケちゃんの部屋に遊びに行った。タケちゃんは、いつだってよく来たなと受け入れてくれた。海で泳いでいた時ももちろん一緒だった。

 自分の部屋に一人でいると、一人で生きていくことが辛く感じた。気ままな大学生の一人暮らしのはずだった。親元や兄貴たちから離れて、一人暮らしを始める前はそう思っていた。友達の部屋にいる間だけは、辛い気持ちを忘れられた。楽しいひと時が過ぎると、自分の部屋に戻ると辛い気持ちになる毎日。なのだけど、なのだけども、仲のいい友達とひと時でも一緒にいたかった。ただ、それだけだった。

 今は、思い立って夜中に、急に遊びに行ける友達はいない。タケちゃんももういない。娘も遠くに離れていく。風呂には一人で入る。泣きたい気分の時も一人。慰めてくれる友達もいない。だけど、何かひとつでも大学時代のことを思い出せれば、少し幸せな気分になれる。