にいがたショートストーリープロジェクト2025

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ストーカーの心理学 福田清張 著

 自己中心的な人間はどこに行っても、嫌悪される。職場にいるあの人も。

「ポッポ焼きは売れますって。ポッポ焼きは」

 皆藤さんは力説する。新潟の菓子メーカーで商品企画部に勤務する私に詰め寄る。

「新潟のおやつ、ポッポ焼きは!」

「わかりましたって。わかりましたから」

 皆藤さんは基本、距離感がおかしい。

 自分の言いたいことは是が非でも口にする。反対しようものなら、何倍にして返してくる。

「分かってくれましたか? じゃ、企画書を」

 と、無造作に企画書をペラ1枚。

「いや、あの ……」

「前向きに検討を。じゃ、休憩なんで」

 そう言って、皆藤さんは休憩時間に入る。時刻は正午。お昼休みだから。

 ほかの社員は皆藤さんを煙たがり、最低限の付き合いに留める。

 私も上司として、彼の自己中心的な性格を軌道修正できるのであれば、この上ない。

 その日の帰り道。最寄りの坂井輪図書館に立ち寄り、予約した小説を借りる。

 新潟出身の作家、福田清張の「西国無双」を読みたくて。物語の概要は新潟から、遠く離れた九州の福岡県柳川市。かの地を治めた戦国大名、立花宗茂の生涯。

 貸出カードをカウンターでスキャンして、待つ間、返却間もない可動式の本棚に視線が止まる。そのうちの一冊が私の琴線に触れた。

「ストーカーの心理学」

 私は借りた。「西国無双」はバッグに詰め込み、図書館の片隅でちょこんと腰かけて。

 ストーカーは世間一般的に忌み嫌われる。むしろ、好きな人がいるのだろうか。

 私は読み進めるうちにストーカー予備軍になり得る性格、行動で思い当たる人がいた。

「皆藤さんだ」

 ストーカー予備軍の特徴はざっとあげれば、こんな特徴が文中に書いてある。

〇独占欲が強く、嫉妬深い

〇思い込みが強く、頑固

〇社交的でフレンドリーな性格

 その他諸々、書き記される特徴はすべて、

「皆藤さんだ」

 私のなかで確信がもてる。彼と接してからこれらの特徴は思い当たりすぎて

「怖い」

 その翌日から私は皆藤さんと距離を置く。

「ポッポ焼きの企画、どうなりました?」

 と、皆藤さんは私に詰め寄る。

 やっぱり、距離が近い。常軌を逸する言動に得心する。

 それから3か月。

 私は本に書いてある通り、対策を講じる。

 ストーカー予備軍は極力、距離を置くのが最善策。それから念には念を入れて、社内のハラスメントを対策する部署にも連絡。

「皆藤さん、その気があるようで」

 と、沈痛な表情を浮かべる私に対応する若狭さんは私の彼氏。

「わかりました。くれぐれも気をつけて」

 若狭さんは表向き、私を気遣い、社内恋愛をひた隠しにする。

「ありがとうございます」

 私は嬉しくて、彼に惚気て、職場のデスクに戻るなり、LINEを連投。

 だけど、若狭のLINEに既読はつかない。

「おかしいな」

「あの」

 その時、音もたてず、皆藤さんが虚ろな顔で私の前に立ちはだかる。突然のことに椅子から転げ落ちて、年甲斐もなく悲鳴を上げた。

「助けてー」

 すぐさま、ほかの社員が駆けつけて、何事かと、ひと悶着。

 ところが皆藤さんは予想外の辞表を提出。

「お世話になりました。では、お元気で」

 突然のことに私をはじめ、ほかの社員も瞬きを繰り返して、皆藤さんの退職願を受理。

 結果オーライ。これでよかったのかも。

「だと、思わない?」

 その夜、私は彼氏のマンションで腕によりをかけて、手料理をふるまう。

 まだ、彼は帰ってきてはいない。だから、サプライズで。

 その後、カギを開ける音が聞こえてくる。

「帰ってきた。おかえりー」

 私はガスレンジの火を止めて、エプロンの紐を外したその時、若狭さんは見慣れない女と帰宅する。

「誰よ? その女」

 と、睨みをきかせる私に若狭さんは吼えた。

「アンタこそ、オレの家で何してんだよ!」

「……え?」

 私は現実に立ち戻る。そして、逮捕された。

 容疑は住居侵入罪。身柄は警察に預けられる。

「そういえば……あの本に書いてあったよね」

 私は連行されるパトカーの車内で思い出す。

〇妄想的で思い込みが激しい

「ポッポ焼き……若狭さんと食べたかったな」