にいがたショートストーリープロジェクト2026

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新潟は世界とつながっている 新田 太右衛門 著

あらすじ
 朗読劇をメインに開催している劇団がある。その劇団員たちが新潟西港で屋外稽古をしている。

 

登場人物
 カツ=劇団の脚本家兼演出
 栄次郎=60代、男、ひろみの配偶者
 ひろみ=60代、女、栄次郎の配偶者
 鉄矢=20代、男、ひろみと交際している。結婚を考えている
 かほり=20代、女、鉄矢と交際している。

 

①新潟西港 佐渡汽船乗り場 
 朝一番の両津発新潟行きのフェリーが到着。佐渡に住んでいる孫のタケシ(12才)が修学旅行で新潟にやってきた。孫の顔見たさに、栄次郎とひろみはターミナルまでやってきたが、大っぴらに声をかけられない。友達に「マザコン」ならぬ「ジサバサコン」と冷やかされるといけないから、物陰からそっと姿を確認するだけにとどめる。

カツ「新潟のじいちゃんとばあちゃんが、孫の顔みたさに佐渡汽船のターミナルに来たが、友達に冷やかされるといけないから見つからないように、そっと孫の姿を窺う、というシーンをやるぞ。
 ハイ、スタート」
ひろみ「えいじろさん、ほらあの団体、タケちゃんの学校じゃねーろっか。タケちゃーん」
栄次郎「大声出すんじゃねえて。見つかっとわーりっけ、隠れろ隠れろ」
ひろみ「どーしてけ」
栄次郎「『ジジとババが迎えに来てるっちゃ』って仲間に冷やかさせると、かうぇそげらろ」
ひろみ「そーいが」
カツ「カット、それらと長岡の人になるすけ、『そーいんだ』にしょーて」
ひろみ「そーいんだ」
カツ「オッケー、続けて」
 二人ベンチの陰に隠れる。

栄次郎「おー、タケシが来たろ。また、でっけーなったなー」
ひろみ「わたしにも見せれね。ほんにのーおぅ」
カツ「それは見附の言葉ら、『ほんーとら』」
ひろみ「わたしにも見せれね。ほんーとら」
 二人、さらに姿勢を低くする。
ひろみ「こっち来たよ、ちーせなって」
栄次郎「おう」
ひろみ「……」(息を殺している)
ひろみ「行ってしもた。忘れもんしてねばいいろも」
栄次郎「ほんねな、元気でけえってくればいいがのー」
 立ち上がると、後ろから大声がかかる。
カツ「おー、越後屋らねっかー」
栄次郎「汝ーは、ホンマ。どうしてここにいるんだ?」
カツ「オレ、今佐渡小学校の校長。修学旅行の引率についてきたんだわー。やっぱ、越後屋タケシはお前の孫だったんだな。珍しい苗字らっけ、そうらと思ってたんだ」
 校長先生(カツ)は列の先頭に届くような大きな声で呼びかける。
カツ「おーい、タケシくん。じいちゃんとばあちゃんがお出迎えだぞ。越後屋くん」
栄次郎、ひろみ「やめてくんなセー」

②新潟西港 新日本海フェリーの見えるみなとぴあ前広場
 男はテンガロンハット、女はポニーテイル。二人とも下はジーンズで揃えている。ベンチに腰掛け、出航する船を見ている。
カツ「交際を始めて一年になるアベック、今日のデートコースは港。という設定」
鉄矢「カツさん、『アベック』って何語ですか?」
カツ「アベックも知らねんか。恋人たちのことらて」
かほり「あーじゃあ、カップルのことね」
カツ「それだ。じゃあ、よーい、ハイッ」
鉄矢「ドラがジャンジャン鳴り出した。次、バカでっけえ音で汽笛が鳴るぞ」
かほり「わー、本当。すっごい大きい音」
 汽笛に負けないように大きい声で
鉄矢「ほら、泡が立って少しずつフェリーが動き出した」
かほり「向きがだんだん変わってきたー。船の人が手を振ってる。行ってらっしゃーい」
鉄矢「おーい、おーい(大きく手を振りながら)」
かほり「どこに行くのかしら」
鉄矢「北海道」
かほり「いいなー、北海道」
鉄矢「オレ二年前にバイクで行ってきたけど、いいとこだったなー」
かほり「バイクは去年の冬にやめて、自動車に乗り換えたでしょ」
鉄矢「バイクだとひろみとどっか行く時、不便だし、転んだら怪我させてしまうからな。やめた」
かほり「オレは『ロンリーライダー』だぜってカッコつけてたくせに。自動車にしたのはいいけど、中古のオープンカーって何。冬は寒いし」
鉄矢「中古だし、軽自動車だけどな。けど、二人で乗るのにはちょうどいい」
 かもめの騒ぐ声で話が中断する。
鉄矢「なあ、ひろみ。おれと夏にこの船に乗って北海道に行かないか」
かほり「ええー、そのために生きがいにしてたバイクをやめてオープンカーにしたの?」
鉄矢「あのちっちゃい車に荷物をいっぱい積んで北海道を走ろうぜ」
かほり「いいんだけど、親になんて言ったらいいか。友達と旅行に行くって言っても、信じてもらえないだろうし。厳しいんだよね、うちの親」
鉄矢「だすけさ、正直に言えばいいんだって。新婚旅行で北海道に行きますって」
かほり「新婚旅行?なんのこと」
鉄矢「オレとさ。あの車で一緒に北海道で新婚旅行をしねえか。
   屋根なし車だって、バイクより安全だし荷物も積めるぞ。
   かほり、オレと結婚してくんねえか。お願いします」
かほり「エッ、ここで指輪」
 フェリー、二度目の汽笛を大きく鳴らす。
カツ「よーし、カット。かほり、感情の変化がよく出てたぞ、OK」
 5人が揃う。
カツ「船、飛行機、車、新幹線、新潟からは日本中どこへでも行ける。そう、外国だって行けるんです。せーの」
みんな「新潟は世界とつながっている」